甘くて苦い恋をした

**

「ねえ… 彼氏と何かあったんでしょ? この前、電話くれた時はあんなに幸せそうにしてたのに…」

心配そうに私を見つめる彼女は、高校時代の親友、栗本彩だ。

普段は新聞記者として忙しく飛び回っている彼女だけど…
今日は私の初カレ記念のお祝いだと言って、小洒落たダイニングバーへと連れてきてくれたのだ。

けれど、
会ってそうそう浮かない顔の私を見て、さすがに彼女も悟ったようだ。

「ごめん、彩… 彼とはもうすぐ終わるかも」

私がそう白状すると、彩はそっかと呟いて、私の手をギュッと強く握ってきた。

「とりあえず今日は飲も。」

彼女の言葉に私はコクリと頷いた。


***

「そっか… それで沙耶は彼が元カノにまだ未練があるんだって思い始めたんだ… でもさ、それ、沙耶の考え過ぎなんじゃない? 大丈夫だよ。彼は沙耶のことをちゃんと愛してるって」

そう言って、彩は必死で慰めてくれたけど…

「ううん… 彼は元カノを愛してるんだよ」

私はプルプルと首を振った。

「沙耶…」

「本当はね… 明日からの休みは彼と二人で一泊旅行の予定だったの… なのに彼が、明日はどうしても元カノ連れて物件見に行きたいって、言ってきて…」

「それ、沙耶は何て答えたの?」

「いいですよって言うしかなかったよ… 凄く必死に頼んでくるんだもん 彼女の条件にピッタリの掘り出し物件なんだとか言って… おかけで明日は三人で物件巡りだよ」

「そっか…」

「うん」

私は二杯目のカクテルをグイッと飲み干した。


『約束のデートに連れて行くよ』
加瀬さんがそう言って、私の為に有名リゾートホテルの予約をしてくれた時は、もの凄く嬉しかった。

ちょうど自信を無くして落ち込んでいたけれど、ちゃんと大事にされてるんだって思えたから…

『夜はあのサクラ色のドレスを着なよ』
そう言ってくれたから、凄く楽しみにだってしてたのに…

『ごめんな、また今度絶対連れてくから』
加瀬さんはそう言って、雪乃さんの為にキャンセルの電話を入れたのだ。

思い出したら、涙が浮かんできた。


「その元カノの物件探しってさ、月曜とかじゃダメだったの?」

「平日は他のアポで埋まっちゃってて… 大きな仕事を優先しなきゃいけないから… だから仕方ないことなんだけどね…」

「そっか…」

「でもさ、彩」

酔っているせいか、何だか加瀬さんへの怒りがこみ上げてきた。

「う、うん…」

「何も旅行をキャンセルしてまで、元カノ優先にすることないと思わない? もしそこが売れちゃったら、また探せばいいだけのことでしょ? とにかく、元カノの店のことに必死過ぎるんだよね! 私なんかよりよっぽど元カノが大事なんだあなって、つくづくそう思ったよ。そんなに彼女が好きなら、ハッキリそう言えばいいのにさ」

「じゃあ、そうやって彼氏にハッキリ言えばいいんじゃねーの? 高本さんも」

グラスを片手に持った男が、突然、私の隣に座ってきた。

えっ、誰?
あっ…!

顔を見てハッとした。
そう、彼は…

「隼太!? やだ、隼太じゃな~い」

私より早く、彩が懐かしそうに声を上げた。




















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