甘くて苦い恋をした
翌朝、目を覚ますと頭がガンガンしていた。
酷い二日酔いだ…
昨日はどうやって帰ってきたんだっけ?
ぐるりと部屋を見渡すと、テーブルの上に鍵が置かれていた。
げ!
隼太くんに家まで送らせちゃったんだ!
全く記憶がないけれど、きっとそうに違いない。
あーあ…
調子に乗って飲むんじゃなかった。
後で電話で謝ろう…
って、そんなことより、今日は雪乃さんの物件を見に行くことになってたんだった!
急いで支度しなきゃ!
と、慌てて準備してマンションの下に降りたけど、時間になっても加瀬さんは現れなかった。
おかしいな…
遅れる時は、必ず連絡くれるんだけど…
私はバックから携帯を取り出した。
そう言えば、昨日飲んでいる途中で、加瀬さんからラインが来てたんだよね…
少し頭にきてたから、わざと開けずに無視してたけど、
もしかして、予定の変更でもあったのかも…
そう思い、慌ててラインを開いてみると…
“沙耶… 旅行のことごめんな”
“明日、近場になっちゃうけど、夜景の綺麗なホテルを予約したから、夜からデートしよう”
こんなメッセージが入っていた。
「加瀬さん……」
ちゃんと私のこと、考えていてくれてたんだ…
何だか胸が熱くなった。
と…
ちょうどそのタイミングで、加瀬さんの車がやって来た。
「おはようございます!」
私は笑顔で助手席へと乗り込んだのだけど…
加瀬さんは返事はおろか私の顔さえも見ずに、黙って車を発進させた。
えっ…
何で無視するの?
明らかに怒っている様子…
「あっ あの、加瀬さん?」
恐る恐る声をかけると…
「なに?」
恐ろしく冷たい返事が返ってきた。
「私、何かしましたか?」
「さあ…?」
「え…」
さあ?って…
「あの… ちゃんと教えて下さい!」
「じゃあ、あいつにでも聞いてみたら?」
「え… あいつ?」
加瀬さんの言っている意味がサッパリ分からない。
「あの… ホントに何のことだか分からないです。あいつって一体誰ですか?」
「だから、おまえが昨日イチャついてたあいつだよ」
「えっ、昨日…て ええ! まさか隼太くん!?」
思わず声を上げると、加瀬さんがフンッと鼻で笑ってこう言った。
「俺はいつまでも加瀬さんで、あいつは名前だもんな…」
「や、あの… 違いますよ! 彼は高校の同級生で昨日たまたま会っただけですから!」
「たまたま会った奴に随分気を許すんだな… それとも俺への当てつけか?」
氷のような冷たい目に、涙がこぼれそうになる。
誤解を解こうにも、昨日の記憶がないだけに上手く言葉が出ない。
重苦しい空気のまま、私達は雪乃さんの元へと向かったのだった。