甘くて苦い恋をした
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「高本さん、本当にすいません… お休みの日なのに私の物件探しになんか付き合わせてしまって…」
後部座席に乗った雪乃さんが、申し分なさそうに言ってきた。
「いえいえ、大丈夫ですよ… いい物件だといいですね」
「ありがとう…」
私の言葉に、雪乃さんがにっこりと笑った。
雪乃さんは素直で凄く性格もいい…。
影で愚痴を言ってしまうような私なんかとは大違いだ。
「あのさ、雪乃、今から行く物件なんだけど、かなり条件がいいんだよ。立地も広さも申し分ないし、建物もまだ新しい… 売り主が海外に行くことになって急いでるから値段も相場よりかなり安いんだ。急がないと売れちゃうと思うから、雪乃が気にいったら、今日中に手付け金払って押さえよう」
加瀬さんが真剣な表情でそう言った。
「えっと… 待って、ごめん 手付け金っていくらくらい払うの? 自動機で下ろせるかな…」
雪乃さんが心配そうにそう言った。
「100万だよ。でも、今日は金融機関が休みだから、俺が建て替えておく。ちゃんと用意してきたから」
え…
用意してきたの?
雪乃さんの為にそこまでするんだ…
心の中でため息をついた。
「えっ… いいよ 悠真にそんなことさせられないよ もし売れちゃったなら、また探せばいいんだし」
「雪乃、これ逃したら、当分条件に合う物件なんて出てこないぞ… 正直、雪乃が提示してる金額じゃ厳しいんだよ… 何かを妥協しなきゃいけなくなる」
「うん、分かってる。でも、やっぱり月曜にちゃんと自分のお金下ろしてからにするよ… それで売れちゃってたら、縁がなかったんだって思うようにするから…」
「あのさ、分かってると思うけど、買って終わりじゃねーからな。そこで商売して、ちゃんと利益だって上げてかなきゃいけないし… 皆な人生かけて、真剣に勝負してるんだよ。生半可な覚悟なら、初めから辞めとけよ」
「悠真…」
なんか、ちょっと目が覚めた。
きっと、加瀬さんは相手が雪乃さんじゃなくても、同じようにしていただろう…
いつだって加瀬さんは、人生かけて勝負する人達を全力でサポートしてきたから…
それをそばで見ていた筈なのに…
ダメだな、私
色々とダメだ…。
「悠真… ごめんなさい 私、中途半端な気持ちじゃないから… その100万円、どうか私に貸して下さい。」
雪乃さんが真剣な目でそう言った。