甘くて苦い恋をした
加瀬さんが見つけてきた物件は、もともとはお洒落なカフェだったようで、、そのままの状態で売りに出されていた。
「内装はそんなに手を加えなくても良さそうですね…」
私は店内をグルリと見渡した。
「テーブルや椅子もそのまま使えそうね!」
雪乃さんも目を輝かせた。
「ここは駅からも近いし、オフィスや大学もあるから集客面も問題ないと思う。あとは雪乃次第だけど… どうする?」
「うん 決めた! ここにする!」
雪乃さんが嬉しそうにそう答えた。
「分かった。じゃあ、すぐに仮押さえするよ」
加瀬さんはホッとした顔でそう言うと、早速、不動産会社に連絡を入れた。
***
「そう言えば、窓って閉めてきてくれた?」
契約に向かう車の中で、加瀬さんが私に尋ねてきた。
「はい ちゃんと閉めてきました。」
加瀬さんは、雪乃さんの前では普通に接してくれているのだけど…
「そうか… ありがとう」
でも、やっぱり表情は凄く冷たい。
困ったな
心の中でため息をつく。
『あいつにでも聞いてみたら?』
あんな言い方をしたってことは、少なくとも隼太くんは何か事情を知っている筈だ。
けれど、ここで彼に電話して聞く訳にいかないし…
色々と考えているうちに、ふとある疑問が浮かんできた。
今朝、鍵は部屋の中にあったのに、なぜ玄関の鍵が閉まっていたかということだ。
出て来る時はバタバタしていて深く考えなかったけれど…
隼太くんが鍵をかけて帰ることは不可能だし…
私が自分でかけた可能性も低い。
だとすると、考えられるのは加瀬さんだ。
実は雪乃さんの事がきっかけで、加瀬さんとはお互いの部屋の鍵を交換していた。
言い出したのは加瀬さんで、多分、私に気を使ってのことだろうけれど… 私はちょっと浮かれて『留守の時は合鍵で勝手に入っててくれてもいいですよ~』なんて言った覚えがある。
私はゴクリと唾を呑んだ。
マズい…
加瀬さんと隼太くんが、私の部屋で鉢合わせした可能性が非常に高い…
とにかく隼太くんに連絡を取って、一刻も早く昨日のことを聞き出したいところだけど……
私はもどかしい思いで、車からの景色を見つめていた。