甘くて苦い恋をした
隼太くんからだった。
私は大きく深呼吸して電話に出た。
『もしもし…』
『あ、わりー 今って大丈夫か? 彼氏そばにいる?』
『いないよ… もう、家に帰ってきてるから』
『そっか… じゃあ、ここ開けろ 話があるから』
『え?』
『今、おまえのんちの玄関の前』
『うそ!?』
玄関のドアを少しだけ開けてみると、本当に隼太くんが立っていた。
「な、何でいきなり来るの!」
「ちゃんと電話しただろ?」
「いやいや、それ今じゃない…」
「いいから、早く入れろって」
「今日は無理…」
だって、今は誰とも話したくないし…
それに、こんな泣き顔だって晒したくない
「ごめん、別の日にして…」
私がドアを閉めようとした瞬間、隼太くんが強引に中へと入ってきた。
「ちょっ、ちょっと!」
「何か、おまえ、すげー顔だな」
私の顔を見るなり、隼太くんが言った。
「もう!悪口言うなら帰ってよ」
私は隼太くんを思い切り睨みつけた。
**
「彼氏に昨日のこと怒られだんたろ?」
ソファーに腰掛けながら隼太くんが呟いた。
「ねえ、隼太くん、昨日のこと教えてくれない? 私、全然記憶なくて…」
「何だ、彼氏から聞いてねーの?」
私は黙って頷いた。
「昨日、酔い潰れたおまえを家に送り届けたら、部屋に彼氏がいたんだよ… 一瞬、修羅場になりかけた」
「そっか… やっぱりそういう事だったんだ」
「まあ、何とか誤解は解けたけどな… ただ、彼氏がおまえを抱きかかえた時、おまえが余計なこと言ったもんだからさ… 彼氏、すっげームッとしてたぞ」
「え? 何言ったの 私!?」
「『隼太くん、今日は楽しかったね~』って」
「うわっ…」
いくら酔っぱらってたとはいえ、加瀬さんの前でそんなこと言っちゃってたなんて…。
早く、加瀬さんに謝らなきゃ!
って…もうどうでもいいのか そんなこと…
結局、謝ったところで、加瀬さんの気持が私に向く訳でもないだろうし…
「つうか… それで喧嘩して泣いてたんじゃねーのかよ」
「違うよ…」
「じゃあ、何で泣いてたんだよ…」
「それは…」
再びポロリと涙がこぼれ落ちた。
**
「なるほどな… そりゃ、ショックだったな」
私が今日のことを打ち明けると、隼太くんは腕を組みながらそう呟いた。
「うん」
「で… 一人でウシウジ、メソメソしてた訳か」
「だって…」
「だってもクソもねーだろ… ほら、彼氏んとこ行くぞ」
隼太くんが私の腕を掴んで立ち上がった。
「えっ、ちょっと待ってよ! 何しに行くつもり!」
「決まってんだろ? 彼氏におまえと元カノどっちを取るのかハッキリ決めさせに行くんだよ」
「えー! そんなのいいってば~~!!」
「心配すんな 俺がそばで見ててやるから」
そう言って、私の腕を引っ張りながら、強引に部屋から連れ出そうとする隼太くん。
もう、何なのよ…
そっとしておいて欲しいのに!
結局、私は隼太くんの車に乗せられて、加瀬さんのいる会社へと向かう羽目になってしまった。