甘くて苦い恋をした
会社近くのパーキングに車を止めて、そこから歩いて向かうことになったのだけど…
「あのさ、隼太くん… もう、逃げないからこの手を放してくれない?」
私の腕には隼太くんの手が、しっかりと絡みつけられていた。
「いや… ダメだな 放したら逃げるだろ?」
「逃げないよ」
「でも、今まで散々逃げてきたじゃん」
「え…?」
「本気でぶつかる前にいつも逃げて、結局、相手と真剣に向き合ったことなんて無いんだろ? 違った?」
「えっと……」
違くない…
今も、どうやって隼太くんを撒こうかって考えていたし、わざわざ傷つきになんて行きたくないって思ってた。
「まあ、いいや おまえが決めることだから… そんなに逃げたきゃ、逃げればいいよ」
隼太くんは私から手を放し、クルッと背中を向けて歩き出した。
「ま、待ってよ」
私の言葉に隼太くんは足を止めた。
「ちゃんとハッキリさせてくるから… 今日で終わっちゃうかもしれないけど、彼の本当の気持ちにを確かめてくるよ。だって加瀬さんは、本気で好きになった人だから!最後くらい本気でぶつかってみる。」
「ふーん」
「ふーんって…」
「ほら、行くぞ」
隼太くんは私の手を握ってそう言った。
***
会社の入り口が見えてきて、いよいよ心臓がバクバクと音を立て始めた。
「ちょっと、待って…」
私は足を止めて大きく深呼吸した。
「そんなにか…」
隼太くんが私を見てフッと笑う。
「そりゃそうだよ… 殆ど負け戦なんだから」
「そんなの分かんないだろ?」
「も~ 他人事だと思っ…」
「しっ!」
「え?」
突然、隼太くんが私を連れてビルの路地裏へと隠れた。
「どうしたの?」
「おまえの彼氏が出てきて、今、女と会ってる…」
隼太くんはビルの影から覗きながらそう言った。
「え?」
私もそっと覗いてみると…
会社の前で、加瀬さんと雪乃さんが向かいあって話していた。
何で雪乃さんがいるのだろうか…
え? もしかして…
今夜、私の為に取ってくれたホテルに、雪乃さんと行くとか…
早くも挫けそうだ。
「おい! 歩き出したぞ!」
「え!」
私は隼太くんに連れられて、加瀬さん達の後をこっそりと追った。