甘くて苦い恋をした

二人はそのまま、近くの喫茶店へと入って行った。

「よし! 俺達も入るぞ」

「え… さすがにそれは」

後を付けてたなんてバレたくないし…
見つかったら気まず過ぎる。
私が入口で躊躇っていると…
 
「ボックス席だし、どうせ気づかれねーよ」

隼太くんはそう言って、スタスタと店の中へと入って行ってしまった。

「あ、ちょっと、待ってよ~」

結局、私も店の中へ…

『いらっしゃいませ~ お好きなお席へどうぞ』

店員にそう言われた隼太くんは、迷わず加瀬さん達の隣の席へと腰かけた。

一瞬、ギョッとしたけれど、確かにちゃんと仕切りもあるし、喋らなければ何とかなりそうだ。

ビクビクしながらも席に着くと、早速、二人の会話が聞こえてきた。

「雪乃… キャンセルの理由、ちゃんと説明してよ」

「だから、別に大した理由なんてないってば… ただ急に気が変わって興味がなくなっただけ…」

「そんなのおかしいだろ? 昼間あんなに張り切ってた奴がさ… 一体何があったんだよ」

何だかちょっと揉めている様子…
会話から察するに、どうやら雪乃さんがプロデュースの依頼を断ってきたようだ…。

けれど、物件まで押さえたのにどうして…

それとも雪乃さんは、もともとこういう気分屋な性格なのだろうか…
突然加瀬さんをフッて海外に行くぐらいだし…

すると、雪乃さんが呟いた。

「色々と面倒くさくなったの…」

「面倒くさい?」

「そう… やっぱり自分でやるより、おじ様の所で雇って貰ったほうが気が楽かなって…」

「それ本心?」

「そうよ」

「そうか なら仕方ないよな。ホントはこういう中途半端な仕事したくなかったけど… 分かったよ、先方にはちゃんとキャンセルしとくから。ただ、手付金の100万は返ってこないと思っといて」

意外にも加瀬さんはあっさりと引いた。
加瀬さんの性格なら、雪乃さんを叱りつけて説得するかとも思ったけど…

「うん それはもちろん分かってる。あっ 悠真にはちゃんと月曜日にお返しするから… 本当にごめんなさい」

「分かった。じゃ、俺、会社戻るからこれで…」

そう言って、加瀬さんが立ち上がった時だった…

テーブルに置かれた雪乃さんのスマホが、ブルルと大きく振動した。

恐らくメールか何かを知らせる音だったのだと思うけれど、その拍子に雪乃さんが水の入ったグラスを倒してしまった。

「あ… ご、ごめんなさい…」

動揺する雪乃さんの声…

「大丈夫か 雪乃」

「えっ あっ うん… ご、ごめん…なさい」

「なあ? おまえ、何でそんなに手、震えてんの?」

「べ、別に震えてなんか…」

思わず隼太くんと顔を見合わせた。
明らかに雪乃さんの様子がおかしいからだ。
声だって震えている。

「雪乃… ちょっと携帯見せて」

「ダメ! 私さえ店を諦めれば解決するんだから!」

「え?」

「あ…」

どうやら雪乃さんには、何か事情があるらしい…



























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