甘くて苦い恋をした
「それって… どういう意味? 答えろ 雪乃」
加瀬さんは再び席につき、雪乃さんにしつこく問いただした。初めは黙っていた雪乃さんも、観念してようやく口を開いた。
「帰った後にメールが来たの。『出店は諦めろ。おまえの大事な男が被害にあうぞ』って… それからずっと… 同じ内容のメールが何度もきて…」
「誰がよこすの そんなメール」
「分からない… 知らないアドレスだから… でも、ただのイタズラじゃないと思う。現にバイクが突っ込んできたでしょ? あれは悠真が狙われたんだよ… 大事な男って悠真のことだから… 今日のは脅しで済んだけど、このままじゃ、悠真が!」
「雪乃、ちょっと落ち着こう… な?」
取り乱す雪乃さんを加瀬さんが優しく宥めた。
「う、うん…」
「じゃあさ、まずは警察に届けよう。アドレスも分かってるし、すぐに捕まるよ」
「警察はダメだよ… 二年前にだって、調べてもらったけど、結局分からないって言われて、そうこうしてるうちに、悠真が駅の階段から落ちそうになったんだから… 当時は黙ってたけど、あれは誰かが突き落とそうとしたんだよ」
二年前って…
もしかして、それが加瀬さんと別れた理由なんじゃ…
「雪乃… 二年前にも同じことされてたのか? だから俺と別れたのか?」
加瀬さんもさすがにそう考えたようだ。
「…うん その時は『恋人と別れてフランスに留学しろ』っていうメールだったけどね… とにかく、どういう恨みか分からないけれど、私の邪魔をしてくるのよ」
「何ですぐ俺に言わなかったんだよ」
「初めはただ、心配かけたくなかったの… でも、悠真が危ない目にあって怖くなった。一刻も早く悠真から離れなきゃって… 黙ってたのは悠真を守る為だよ」
すすり泣く雪乃さんの声が聞こえてきた。
「雪乃…」
加瀬さんが切なそうな声で言った。
「ごめんな、雪乃… ひとりで辛い思いさせてごめん」
「あのね… 私は悠真のこと忘れたことなかったよ… あんな別れ方したけど、いつかまた悠真のところに戻りたいってずっと思ってた…」
「雪乃… ごめん 俺はもう…雪乃の元へは」
「うん ちゃんと分かってるよ。悠真の彼女って、高本さんでしょ? 今日気づいちゃった… 安心してね、別にもうヨリを戻して欲しいなんて言わないし、悠真にはこれ以上迷惑かけないようにするから」
「あのさ、雪乃… 店は諦めなくていいよ 雪乃の店は俺が守ってやるから… そいつも俺が捕まえてやる」
「ダメだよ… それじゃ、悠真が危ない」
「大丈夫だから…」
そんな二人の会話を聞きながら、私はある決心をしたのだった。