甘くて苦い恋をした
私達はスタッフルームに場所を移した。
もちろん、春樹さんもだ。
「やっぱ、おまえだったんだな… 使い捨てのフリーメール使って雪乃を脅迫してたのは…」
「ああ そうだよ… この程度のメールなら、いくら雪乃が警察に相談しても捜査なんかしないからね」
加瀬さんの言葉に、春樹さんは開き直ったように答えた。
「昨日のバイクもおまえだろ? 偽造ナンバーのバイク、店の駐車場に隠してあったけど… 俺、記憶力いいからちゃんとナンバーまで覚えてるんだよ」
「ああ… そうだよ 全部俺がやったことだよ」
「何でこんなことしたの?」
雪乃さんが春樹さんの腕を掴んだ。
「雪乃がいけないんだよ 俺が二年前にせっかくこの男と別れさせたのに、またヨリなんか戻そうとするから… このサクラガーデンだって、雪乃の為に親父に頼んで作らせたのに… 雪乃は自分の店なんか持とうとして」
「おまえ… 随分勝手だな。」
「だって… 雪乃は俺のものだろ?」
「テメエ、いい加減にしろよ!」
そう言って、加瀬さんが怒鳴り声を上げた時、
ガチャとスタッフルームのドアが開けられた。
「春樹!! 恥を知りなさい!!」
そう言って、もの凄い剣幕で入って来たのは桜社長だった。
「親父……」
「私の大事な姪に何てことをしてくれたんだ!もう、おまえなんて勘当だ! 荷物まとめて出て行きなさい!」
「ちょっと、待ってくれよ」
「会社もクビだ!世間の荒波にでも揉まれてきなさい!」
「親父!」
「出て行け!」
桜社長は付き人に命じて、春樹さんを外へと追い出した。
そして、
「雪乃! 加瀬くん! 本当に申し訳なかった! この通りだ… 息子のしたこと、どうか許してくれ!」
そう言って、桜社長は土下座をした。
「おじ様…」
「社長… 頭を上げて下さい」
「いや、謝っても謝りきれないよ… 君たちの仲だって息子が引き裂いてしまったんだろ?」
「そんなこともういいから… おじ様頭を上げて」
「加瀬くん、頼む! もう一度、雪乃とヨリを戻してやってくれ! 雪乃をどうか幸せにしてやってほしい!」
「おじ様、違うの… 加瀬さんには」
「社長、申し訳ありません 僕には」
「とてもお似合いだと思います! お二人は」
私は雪乃さんと加瀬さんの言葉をかき消すように、大きな声でそう言った。
「沙耶…」
「どうか、お幸せに…」
驚く加瀬さんに私はにっこりと微笑んで、スタッフルームを飛び出した。