甘くて苦い恋をした
私達は、病室に移った加瀬さんの元へと向かった。
個室の扉をガラガラと開けると、加瀬さんがベッドに腰掛けて点滴を受けていた。
反対側の左腕は、早速固定され、白い布で吊されていた。
「悠真!」
雪乃さんが加瀬さんの名を呼びながら、中へと入って行った。
「あー 悪かったな… 迷惑かけて」
加瀬さんは雪乃さんに笑顔を見せた後、すぐに入口にいた私へと視線を移した。
「沙耶…」
「加瀬さん… 私」
顔を見てホッとした気持ちと、加瀬さんへの申し訳なさで
涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「あーあ おまえ、ここで泣いてたら彼氏の誤解解けないだろ? ほら、こいよ」
隼太くんは私の背中を押しながら、病室の中へと入って行った。
「言っとくけど、俺とは何でもないからな… こいつはあんたが元カノを好きだと勘違いして、身を引こうとしたんだよ。あんたが罪悪感持たないように、俺と浮気した振りしてさ…」
隼太くんの言葉に、加瀬さんは驚いた顔で私を見た。
「こいつが素直な性格じゃないのは、あんたもよく分かってるだろ? 平気な振りしてたみたいだけど、あんたと元カノのことですげー苦しんでたんだからな。俺みたいなのに付け込まれないように、しっかり捕まえとけよ」
それだけ言うと、隼太くんはそのまま病室を出て行った。
すると、
加瀬さんが点滴の刺さった手を伸ばし、私の体を強く抱きしめた。
「沙耶 ごめんな…」
耳元で加瀬さんの声が切なく響いた。