甘くて苦い恋をした
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『高本さん… 悠真のこと宜しくお願いします。悠真も、お願いだから無理しないでね』
別れ際、雪乃さんは心配そうにタクシーを降りて行った。
それもその筈、
加瀬さんは医者から入院を勧められたのに、
『安静にするだけなら家でもできる』と言って、私達と一緒に帰ってきてしまったのだから…
「沙耶と離れたくなかったんだよ」
雪乃さんが降りた後、加瀬さんは私の手を握りながらポツリとそう呟いた。
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深夜0時過ぎ…
ようやく、加瀬さんのマンションに着いた。
「加瀬さん、大丈夫ですか?」
タクシーを降りて、ゆっくりと歩き始めた加瀬さんに、私は慌てて声をかけてた。
「大丈夫だよ… 痛み止めがきいてるから」
なんて言い包も、歩く度に「イテッ」と呟くから心配になる。
ようやく寝室へと辿り着き、加瀬さんは仰向けのままベッドへと横たわった。
「それじゃ、私はソファーで寝ますね おやすみなさい」
そう声をかけて、ベッドから離れようとしたのだけど…
加瀬さんが私の手を掴んで引き止めた。
「沙耶もベッドでいいよ」
「ダ、ダメですよ! 加瀬さん骨折してるんですから」
一緒に寝るなんてとんでもない!
私は激しく首を振ったのだけど…
加瀬さんは手を離してくれなかった。
「大丈夫だよ… それに、沙耶に聞きたいこともあるし」
そんな風に言われ、結局、私は加瀬さんのベッドへと潜り込んだ。
「聞きたいことって… 何ですか?」
加瀬さんの方に顔を向け、早速、尋ねてみた。
「あー うん、ずっと気になってたんだけどさ… 沙耶は、どうして雪乃の脅迫メールのことまで知ってたのかと思って…さ」
「あ、それは…」
そうだった。
バタバタしてて、そのままにしてしまったけれど…
やっぱり、きちんと話すべきだよね…
「ごめんさない…」
「え?」
「昨日、後をつけてました… 隼太くんと…一緒に」
「え… 昨日?」
目を丸くする加瀬さんに、私は全てを打ち明けた。
加瀬さんの本心を聞きに会社に行ったこと
途中で雪乃さんといるのを見かけ、喫茶店での会話を盗み聞きしたこと…。
そして、結城さんに会いに行ったことも全て。
「そっか… そういうことだったか」
「はい 隼太くんも色々と協力してくれたので…」
「そうだよな… ご丁寧にキスマークまでつけてもらったんだもんな」
ん?
今、サラッと嫌みを言われたような…
「えっ…と」
「で? 指輪はどこやったの?」
「え? あ!! 隼太くんに… 預けっぱなし…でした」
「は?」
「ごめんなさい!!」
恐る恐る加瀬さんの顔を見ると…
案の定、ムッとした顔になっていた。