甘くて苦い恋をした
番外編~隼太side~
月曜の夜…
沙耶が店へとやって来た。
「隼太くん、ごめんね! 私の指輪返してくれる?」
裏口で待っていた沙耶が俺を見るなりそう言った。
「あー そうだったな…」
俺はポケットから指輪を出して、沙耶の手のひらに乗せた。
「ありがとう。良かった~」
沙耶はホッとした顔でそう言うと、早速、右手の薬指に指輪を嵌めた。
「彼氏とはちゃんと仲直りできたのか?」
俺の言葉に、沙耶は笑顔でこう言った。
「うん、できたよ。隼太くんのおかげ… 本当にありがとね。思ってることだって、ちゃんと言えるようになったし… それにね、私、もうすぐ彼からプロポーズして貰えるんだ」
「え! プロポーズ!?」
「そう! プロポーズ! なんか幸せ過ぎて怖いくらい」
フフっと顔を綻ばせながら嬉しそうに笑う彼女。
きっとこの女は、俺が告ったことなんかすっかり忘れてるんだろうな…
まあ、別にいいんだけど…
「ふーん そりゃよかったな…」
「何その反応… もっと喜んでくれるかと思ったのに…」
「おまえな… 仮にも自分を好きだって言ってきた相手に普通は惚気ないんだよ… もっと気をつかえ バカ」
「あっ… そっか、そうだったよね… ごめんなさい」
沙耶は慌てて謝ると、神妙な顔つきで俺のことを見つめてきた。鈍感なりに、ちゃんと反省はしているようだ。
「嘘だよ… ちゃんと幸せになれよ」
「え… あ、うん ありがとう」
俺が笑うと沙耶も安心したように笑った。
「じゃあな」
「うん じゃあね」
沙耶はスーパーの買い物袋を片手に去って行った。
これからあいつに手料理でも作ってやるのだろう…
ったく…
幸せそうな顔しやがって…
ちょっと恨めく思いながら、沙耶の背中を見送っていると、突然、彼女が振り向いた。
「早く隼太くんも幸せになってね~」
そう叫びながら、手を振る鈍感女。
「余計なお世話だ! バ~カ!」
思い切り睨みつけてやった。
まあ、彼女が幸せなら何でもいいか。
フッと笑いながら、俺は裏口のドアに手をかけた。