甘くて苦い恋をした
二年後の二人
あれから二年の月日が経ち…
私は入社して四度目の春を迎えていた。
「高本さん! おはようございま~す」
女子トイレで元気に挨拶してきたのは、今年、隣の課に配属された新人の柏木さんだ。
彼女はとても人懐こい性格で、こうして女子トイレで会っているうちに、すっかり私にも懐いてしまった。
「おはよう 柏木さん。」
鏡の前に並んでリップを塗っていると、柏木さんが改まった様子でこう言った。
「あの、高本さん… ちょっと、つかぬ事をお訊きしますが…」
「ん? 何?」
「はい… 加瀬さんのことなんですけど…」
思わずその名前にドキッとする。
「加瀬さんがどうかしたの?」
「はい、実は私の同期の子達が加瀬さんのことをいいなあって言ってて、彼女がいるのかを知りたがってるんです。コンビ組んでる高本さんなら分かるかなって…」
「そっか… でも、ごめん、私もよく分からないや…」
「そうですか… やっぱり、高本さんは海外にいる婚約者さん以外には全く興味がないんですね~ 凄いです」
柏木さんが私の左手にある指輪を見ながら、関心した様子でそう言った。
「え… いや… 別に」
リアクションに困っていると、柏木さんがこう続けた。
「だって、加瀬さんとコンビなんか組んだら、普通は例え彼氏がいたって好きになっちゃうと思うんですよ。私の同期の子達だってみんなそう言ってますよ」
柏木さんはキラキラとした目でそう言った。
「……へえ~」
なんて惚けてみたけれど…
彼が新人キラーなことは私もよく知っている。
だって、過去の新人は私を含め皆な彼を好きになっちゃった訳だから…
「そう言えば、高本さんの婚約者さんっていつ頃帰ってくるんですか? 帰ってきたら、すぐに式を上げるんですよね?」
「え… あー、まだハッキリとは分からないんだけど、あと一、二年したらかな~」
「そうですか。その時はぜひ私も式に呼んで下さいね」
なんてにっこり笑いながら、柏木さんは女子トイレから出て行った。
参ったな…
私は誰もいなくなったトイレの中で、深いためを息をついた。
***
「高本~ そろそろ出るぞ」
「はい 分かりました」
私は書類の入った鞄を抱え、急いでエレベーターへと飛び乗った。
扉が閉まりエレベーターが下降しかけると、突然、後ろから抱きしめられ首筋にキスされた。
「加瀬さん、辞めて下さい…」
「何で?」
「何でって…」
パッと彼の方に振り向くと、
「はいはい、悪かったよ…」
そう呟いて、すぐに私から離れた。