甘くて苦い恋をした
更に一年後

それから、あっという間に一年が過ぎて…
私はもうすく26歳の誕生日を迎えようとしていた。
仕事も5年目に入り、若い子が多いこの会社ではすっかりお局社員の仲間入りだ。

一方、30歳になった悠真は大人の色気が増してきて、今まで以上に女の子達から騒がれるようになっていた。


「高本さん。加瀬さんって彼女いるんでしょうか?」

また今日も、若くて可愛い新入社員が私のところにやって来た。

けれど、最近の私は…
とんでもない嘘をついている。

「加瀬さんはね、どうやら男の人が好きみたい… でも、このことは絶対秘密にしてあげてね」と

ごめんなさい、悠真…
今日も心の中で懺悔する。
でも、諦めさせるにはこれが一番効果的なのだ。

実はちょっと前に…
酔っぱらった彩が私にこんなことを言ってきた。

『男はね、何だかんだ言っても若い子が好きなのよ… いくら同棲してたって油断なんかしちゃダメよ。沙耶の左手に指輪が無い以上、簡単に奪われちゃうんだからね』と

そして、彼女は何度もこう言った。
『とにかく、どんな手を使ってでも、若い子なんか追い払いなさいよ』と

彩なりに、先の見えない状態でいる私達のことを心配してくれているのだろう…

確かにあの日以来、悠真とは将来のことを話していない。
そういう約束だったし、そうさせたのも私だけど、悠真自身の結婚への熱もすっかり冷めてしまったようだった。


きっと私達はタイミングを逃したのだろう…
そう思ったら、何だか急に不安になってしまった。

せめて指輪があれば、悠真を信じていられたのに…
左手の薬指を見つめながら、私は深いため息をついた


**


「高本… ちょっとくっつき過ぎ」

会社のエレベーターの中で悠真が言った。

「え…」

ハッと我に返ると、
いつもの癖で悠真の胸に体を預けてしまっていた。

「ごめんね 悠真… あ!」

思わず口に手を当てると、悠真は一瞬だけフッと笑い、またすぐに私から視線を逸らした。

すっかり昔と逆になっちゃったな…

思わずため息をつくと、悠真と目が合った。

「どうした?」

「いえ… 何でもないです」

私は気を取り直し、にっこりと笑顔を作った。



















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