甘くて苦い恋をした
「昨日、加瀬はちゃんと送ってくれた?」
営業車の中で、早速、結城さんが聞いてきた。
「えっ あ… はい」
「そっか… 本当は俺が送りたかったんだけどね 前の部署の飲み会に、あの後、呼び出されちゃって…」
「そっ そうなんですか…」
思わず目が泳ぎそうになり、結城さんから目を逸らした。
「沙耶ちゃんさ もしかして、加瀬と何かあった?」
運転しながら、結城さんがチラリと私をみた。
「えっ…」
やっぱり、私が不自然なのだろうか…。
「いや、また、あいつの悪い癖が出たんじゃないかと気になってね…」
「それって… どういう意味ですか?」
結城さんの言葉に不安を覚え、恐る恐る聞き返す。
「加瀬はさ、酒飲むと理性が飛ぶんだよね… 好きでもない子にもすぐに手を出しちゃうんだよ… それを割り切れる相手とはその後も続けるらしいけど、相手が本気だと容赦なく切り捨てるっていう、ちょっとたちの悪いタイプだから… これ、同期の中じゃ有名な話… だから、昨日ちょっと心配だった。」
頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
キスをしてくれたのだから、加瀬さんも私を好きなのかと、期待してしまった。
何だ…
とんだ勘違いだった。
しかも、本気の恋はダメって…
「どうしたの? 沙耶ちゃん… やっぱり、加瀬に何かされた?」
「何も… ないです」
そう答えるのが精一杯だった。
「ならよかった。加瀬は沙耶ちゃんが手に負えるような男じゃないから… ガッカリせるようなこと言って悪いけど、あいつのことは早く諦めた方がいいよ」
結城さんの言葉が、尖ったナイフのようにグサリと胸に突き刺さった。