桔梗
15分ほど車を走らせ連れてきてくれたのは、繁華街を外れた静かな路地。
人通りはまばらで、お洒落なバーやレストランが間隔をあけて並んでいる。
「この店。お洒落でしょ」
車の速度を落とすと、助手席側の窓の外を指さす幸隆くん。
指された方に顔を向けると、控えめな電飾で灯された可愛い看板が立つお店が目に入った。
「可愛い…」
思わず呟くと幸隆くんは、そうでしょと自慢げに笑った。
ロースピードで車を進めると、手馴れた様子でお店の横の小さな駐車場に車を停めた。
降りる時も、当たり前のように助手席に回り、ドアを開けてエスコートしてくれる。
幸隆くんの大人な余裕に、私まで"大人の女"になったような錯覚に陥る。
「車、酔わなかった?」
「はい、大丈夫でした。私、初めて乗る車とか結構弱い方なんですけど。なんでだろ」
「そうなの?桔子ちゃん、俺の車と相性いいのかな」
嬉しそうな可愛い笑顔を向けられるとやっぱり調子が狂う。
高級車だから私には大丈夫だったのか、幸隆くんの運転が上手かったのか。
どちらも正解かもしれない。確かに言えることは、今まで乗った車で1番乗り心地が良かったことだ。