桔梗
賃貸マンションの3階。
鍵を回してドアを引く。
…あれ?
玄関こそ真っ暗なものの、廊下とリビングを隔てるドアの隙間から明かりが漏れている。
明かりの方へ歩みを進めると、比例して大きくなるテレビの音。
「ただいま」
「おお、桔子。おかえり」
ドアを開けた先で、お父さんが昨日私が作った晩御飯の余り物を食べていた。
「お父さん、今日は早かったんだね」
壁にかけられた時計の針はちょうど10時を指している。
「たまたまな。桔子は、食べてきたのか?」
「うん、智夏と食べてきた。
お父さん帰るならご飯作ればよかったね」
「いや、偶然仕事が早く切り上げられたからな。昨日の飯でも家でゆっくり食べられるだけありがたいよ」
こうしてちゃんと顔を合わせて会話を交わすはいつぶりだろう。
もう1ヶ月以上は前のような気がする。
久しぶりに見たお父さんは、前より痩せてみえた。
幾分白髪も増えたようで、お父さんももういい歳なんだと実感する。