桔梗
シングルファーザーとして、男手ひとつで私を育ててくれたお父さん。
二人三脚でここまでやってきた。
寂しい思いをしなかったか、と聞かれると否定はできない。
だけど、どこの父親よりも、優しくておおらかで逞しい父親だと思っている。
まあ、恥ずかしくて直接は言えないけど。
「お風呂入るよね?沸かしとくよ」
「ああ、ありがとな」
寝るまでの数時間、今日は自室に籠らずになるべくリビングでお父さんと過した。
会話は多くないし、お互い仕事の話も、学校や友人の話も深く尋ねたりしない。
本当に他愛もない話を少し重ねて、1ヵ月ぶりに
「おやすみ」
と、挨拶を交わした。
私たち親子には、それだけで十分だ。
………____________
翌朝目覚めるとテーブルの上にお皿がひとつ。
まだ焼かれていないトーストに形の悪い卵焼きが添えてあった。
『おはよう、桔子。
昨日の夕食、美味しかったよ。
今日も学校がんばって。
いってきます。 父 』
雑に切り取られたメモに、味のある文字。
お父さんの書いた文字を目にしたのも、凄く久しぶりのように感じる。
今日の歪な卵焼きは、ほんのり甘かった。