妻から女へ~不倫の扉
お風呂から上がった旦那に、いつも通りコップに注いだ冷水を渡す。
「ありがとう。」
普段通り受けとる旦那。
普段通り、普段通り。
動揺を抑えながら極めて「普段通り」を努めた。

(ねぇ、さやかって元カノ?なんで名前が出てくるの?連絡取ってるの?もしかして会ってるの?)
聞きたい言葉が押し寄せてくる。それを追い返すことだけに一生懸命になった。

旦那は普段通り、子供達の寝ているベッドへもぐり込んでいった。
私は後を追って練ることが出来ず、とにかく一人になりたかった。


「んっっ…」
堪えてた涙が出てきた。
私は「さやか」を知っている。
といっても実際には会ったことはない。一度写真を見ただけだ。それも旦那の部屋に置いてあったのをたまたま。
スラッとしたモデル体型の美人だ。
結婚前に「さやか」の話は時々聞いていた。とてつもなく好きだったこと、結婚の話も出てたこと、ただ「さやか」が浮気を繰り返し結局別れてしまったこと。

たぶん、その時から「さやか」はずっと心の中に残っていた。もちろん旦那と、そして私の中にも。

私はというと小柄で普通体型。美人でもなければひどい不細工でもないごく普通のレベル。

30を目前に彼氏と別れてしまい、焦って駆け込んだお見合いパーティーで旦那と出会った。
お互いそこで第一希望の人とはカップルになれず、第二希望同士だった。私より8つ上の旦那はというと、仕事が忙しく出会う時間がなかったようだ。
お互い目的は「結婚」なので事はスムーズに運び、出会って半年で入籍した。
喧嘩もなく穏やかに日々は過ぎ、翌年に長男が生まれた。
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