社長の甘い罠~いつしか当たり前に~ + 番外編
静かな車内で、昨日の冬馬との会話を思い出していた。



「愛してるんだな、長嶺さんを。」


「ああ。」


「結婚するのか?」


「………するつもり。」



冬馬が紫煙を吐き出してから俺を見た。



「家族には?」


「まだ。」


「見合いとか勧められてるんだろ?」


「断ってる。」


「何て?」


「………まだ結婚はしない………。」



冬馬が煙草を揉み消す姿を見つめる。



「健人、そんなんで結婚とか無理だろ。親にも言えない付き合いなら手放せ。長嶺さんを幸せにしたい男は他にもいるだろ。」


「…………手放すつもりはない。」


「親に言えるのか?先の見えない付き合いを強要するなよ。」



冬馬が喫煙室を出ていく後ろ姿をじっと目で追う。



「早めに対処しろよ、仕事も恋愛も。」


「…………。」



冬馬の言いたい事は分かっている。


縛るだけ縛り付けて、先の見えない関係を強要するつもりはない。



「結婚か…………。」



走る車内で俺はそっと目を閉じた。


思い浮かべるのは花菜の笑顔だった。
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