わたしは一生に一度の恋をしました
母の涙
 わたしは不意に目を覚ました。隣の布団を見ると、そこに寝ているはずの母親の姿はなかった。わたしは枕元に置いてあった時計を手元に引き寄せ、時間を確認する。時刻は一時を指し示していた。

 どうしたのだろう。素朴な疑問を感じ、わたしは布団から出た。襖を開けようとしたときだった。襖の向こうから鼻をすするような音が聞こえた。わたしはその音を聞き、心拍数が自然と早くなっていく。

 わたしは迷った結果、襖を少しだけ開けて隣の部屋を覗いてみることにした。わたしは人差し指ほどの幅だけを開け、隣の部屋を覗く。

 わたしの目に飛び込んできたのは机の上にうつ伏せになっている母親の姿だった。母親の肩は小刻みに震えており、泣いているようだった。

 その姿を見て、襖を閉じた。何だか見てはいけないようなものを見てしまった気がしたからだ。

 布団の中に戻ったが、目の奥が熱く眠ることができなかった。今まで母親が泣いているところなど見たことがなかったからだ。

 それからどれくらいの時間が経っただろう。隣の部屋から聞こえていた物音が突然止んだ。急いで起き上がり、隣の部屋を覗いた。

 だが、次に聞こえてきたのは母親の寝息だった。わたしはその寝息に胸を撫で下ろし、床に落ちていたボールペンを拾い、テーブルの上に乗せようと視線をテーブルに向けたときだった。
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