わたしは一生に一度の恋をしました
 殺風景で、ものの少ない部屋。ここで17年の時間を過ごしているようには見えなかった。
 男の人の部屋はこんなものなのだろうか。
 横目で三島さんを見たとき、彼の顔が強張っているのが気づいた。彼は分かったと言葉を紡ぐと、電話を切った。

「どうかしたの?」

 わたしは嫌な予感を感じつつ、尋ねた。

「由紀が怪我をして、今病院にいると」

「怪我? 大丈夫なの?」

「大丈夫だとは思うけど、自分で手首を切ったらしい。傷は浅かったらしいけど……」

 わたしはその意味を悟った。

 彼女がなぜそんなことをしたのだろうか。

 わたしは拳を胸の前でぎゅっと握り締めた。わたしには一つ思い当たることがあった。だが、それを否定したくて堪らなかった。不安や恐怖からか心拍数が上がっていいった。

「わたしのせいかもしれない」

 三島さんはわたしの言葉に怪訝そうな表情を浮かべていた。

「昨日、お父さんが会いに来て、一緒に暮らそうって言われた。わたし、断った」

 だが、彼が自分なりのけじめをつけようとして、それを家族に告げたとしたら。そう考えると物事がつながった。

 三島さんはわたしの頭を撫でた。

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