わたしは一生に一度の恋をしました
 だが、彼のように割り切ることはできなかった。

「変な話、義理の姉がほのかで良かったと思った」
「どうして?」
「だって嫌な奴なら反感持ってしまうけど、ほのかは嫌な奴じゃないから」

 わたしは茶目っ気のある彼の言葉に思わず笑い出していた。だが、同時に涙が零れ落ちた。わたしは泣いているのに気付き、慌てて涙を拭った。

「ごめんね。泣くつもりなかったのに」

「気にするなって。泣きたいときは、泣けるなら泣いたほうがいい。そうしないと心が持たなくなる」

 彼の目にうっすらと涙が浮かんだ。
 わたしは彼の目に誰が映っているのか、気になったが聞けなかった。

 わたしの目から涙がとりとめもなく流れ落ち、そこまで余裕がなかったといったほうが正解なのかもしれない。
 彼はわたしが泣き止むまでずっとそばにいてくれた。


 真一が帰り、誰もいなくなった部屋で、わたしはカレンダーに視線を移した。試験までもうカウントダウンが始まっていた。だが、わたしは問題集に手を伸ばすことができなかった。
< 112 / 157 >

この作品をシェア

pagetop