わたしは一生に一度の恋をしました
 真一はわたしの腕を掴むと歩き出した。真一はわたしの歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。

 わたしと真一は三島さんに最初に会ったときに連れてこられた森に来ていた。真一はわたしの手をしっかりと握ってくれていた。

 森の中をしばらく進むと、わたしたちの目の前に小さな小屋があった。

 真一はコートから鍵を取り出すと、小屋のドアに差し出した。小屋のドアを開いた。

「ここなら泣きたいだけ泣けるだろう? ここは祖父のわたし有地だから僕や将以外はほとんど入ってこないし」

 なぜこの人はこうやってわたしの気持ちを分かってくれるのだろう。

 わたしの瞳からはいつの間にか涙が溢れてきていた。

 涙の量が増えるに伴い、わたしの抑えていた感情が昂ぶり、堪えきれなくなった。わたしは唇を噛み締めると、真一の腕を掴んだ。

 彼はわたしの頭を軽く叩いた。

「泣きたいだけ泣いていいよ。誰にも気にしなくていい」

 その言葉がスイッチになったかのようにわたしの感情は堪えきれなくなった。感情を抑えきれなくなった具体的な理由は探せばいくらでもあるだろう。それらに対する不平や不満や悲しみは全て嗚咽となってわたしの体外へ出て行った。

 わたしは真一のコートの胸の辺りを掴むとずっと泣いていた。真一はそんなわたしの傍にずっと居てくれた。

 わたしは願書の出願をもともと希望していた地元の国立大学ではなく、北海道の大学に出願することにした。

 おばあちゃんにそのことを打ち明けると笑顔で構わないと言ってくれ、わたしは胸を撫で下ろしていた。
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