わたしは一生に一度の恋をしました
 わたしの部屋がノックされた。わたしは手にしていた鍵を引き出しに入れた。これは真一から渡れた小屋の鍵だ。いつでも使っていいと渡してくれたのだ。あの小屋は真一が一人で使っているようなものらしい。

 わたしが返事をすると、真一がコーヒーを持って入ってきた。

 彼はわたしの机の上にカップを置いた。

 彼はわたしが一人で気持ちを溜め込んでいないか不安なのだろう。三日に一回は顔を出していた。
 おばあちゃんもセンター試験の日以来、真一にすっかり心を許したようで、彼の訪問を心から歓迎していた。今や、真一の来ると思われている日にはお菓子を買ってくる始末だ。

「ありがとう」

 真一は笑顔を浮かべると部屋から出て行こうとする。
 わたしはそんな真一を呼び止め、机の上に置いていた願書を真一に差し出した。

「わたし、北海道の大学を受けることにした」

 おばあちゃんには昨日、伝えておいた。彼女は笑顔で構わないと言ってくれた。

 これが今のわたしにできる唯一の選択肢だ。

 真一はぽんとわたしの頭を叩いた。

「寒いけど、平気か?」
「寒いのは苦手だけど暖房器具あるし。きっと家のつくりも違うから大丈夫」

 わたしの言葉に真一は苦笑いを浮かべていた。

「頼りないな。僕が大学生になったら遊びに行ってやるから、良さそうなところがあったらリストアップしておいて」
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