わたしは一生に一度の恋をしました
 もしわたしが真一や由紀と腹違いの兄弟だという噂が流れたらどうなるのだろう。

 少なくとも真一は今よりももっと嫌な思いをすることになるだろう。

 この町にきたときは考えたこともなかった。

 あの日、おばあちゃんと一緒に住みたいと思った選択は間違っていたのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。



 教室の中に入ると周囲から興味本位の視線を浴びせられた。わたしは素知らぬ顔で自分の席に座った。だが、すぐにわたしの肩が捕まれる。振り向くとそこには西岡さんが立っていた。

 彼女はわたしを見ると笑みを浮かべる。

「久しぶり」

 わたしは嫌な予感をひしひしと感じながら、彼女の言葉に曖昧に頷いた。

「あなたのお父さんが高宮くんのお父さんって話は本当なの?」

 わたしはその言葉に息を呑んだ。騒がしかった教室があっという間に静かになった。わたしは目を閉じると息を吸った。


「やっぱり本当なのね。あの人があなたを好きになるなんておかしいと思ったのよ」
「そんなのただのデマよ」

 まくしたてるようにして口にする彼女に、出来る限り落ち着いた口調で言い放った。そのことを他の人に知られてはいけない。

 わたしたちの抱えている秘密の中で一番大きなものだった。

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