わたしは一生に一度の恋をしました
 わたしはいつの間にか、以前真一に教えてもらった小屋の前に来ていた。

 わたしは涙を拭いながら、笑い出していた。

 あのセンター試験の日のことを思い出していたのだ。

 鍵はあっただろうか。コートのポケットをあさろうとしたとき、あきれたような声が耳に届いた。

「本当に、バカだよ」

 真一が小屋にもたれ掛かったままわたしを見ていた。

「どうして」

「二人の姿が見えた」

 彼は唇を噛んだ。わたしが返答する前に彼は言葉を続けた。

「開いてやるから、中に入れよ。人目が気になるだろう?」

 彼はそう言い残し、鍵をあけた。彼に続いてわたしも中に入った。

 そこは以前真一と過ごしたときのままだった。

 扉を閉めると真一がわたしを悲しい目で見ているのに気付いた。

「おかしいよ。お互い好き同士なのに、何で由紀に気を遣う必要がある? 一番大切なのはあいつの気持ちがどこを向いているかということだよ。こんなことをしたら十九年前と同じじゃないか。間違っている」

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