わたしは一生に一度の恋をしました
 エンジンの音が耳に届いた。

 わたしが音に促され、目を向けると、前方から煙を巻き上げバスがやって来た。バスはわたしの待っている場所に停まった。

「行ってきます」

 わたしはおばあちゃんにそう告げるとバスに乗り込んだ。バスはわたしを乗せると、扉を閉めた。

 バスの乗客はわたしのほかは老夫婦だけだった。二人はパンフレットのようなものを広げ微笑んでいた。
 これから、どこかに観光にでもいくのだろうか。
 わたしも数十年後まだ見ぬ誰かとこんな未来が送れる日が来るのだろうか。

 そんなことを考えて、苦笑いを浮かべた。

 今はまだそういうことを考えるには重すぎた。

 わたしは運転席から二つほど離れた場所に腰を下ろした。

 バスのスピードがどんどん加速していく。わたしは見慣れや風景を移した。
 もう辺りには桜の花がぽつぽつと咲き始めていた。

 たった七ヶ月の出来事だった。だがきっとここでの日々はお母さんと一緒に過ごした十七年間と同じように記憶に残り続けるだろう。

 わたしは一瞬景色の中に一人の男性の姿を見た気がした。
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