わたしは一生に一度の恋をしました
 わたしは髪の毛をかきあげ、天を仰いだ。

 あれから、数え切れないほど泣いた。

 由紀や由紀の家族への罪悪感、三島さんとのこと。苦しみは時間が経てば少なくなると言うが、そんなことはなかった。何年経ってもわたしの心を開放してくれなかった。

 長年会えない人を好きでいるというと、友人は決まって変な顔をする。もっといい男がいる。相手はわたしに会う気がないのだ、と。

 だが、わたしはそんな意見に耳を傾けることはできなかった。


 長い歳月を一人で過ごし、やっとお母さんの気持ちを実感した。なぜ彼女があの後誰とも付き合うことなくわたしを一人で育ててくれたのか。辛いこともあっただろう。誰かにもたれかかりたいときもあっただろう。だけどそうしなかったのはお母さんにとって唯一の人に会ってしまったから。

 本当に好きな人と出会うことが出来たとき、その人以外は異性でなくなってしまうのかもしれない。

 もちろん個人差はあるだろうし、人によってそんなことない人もいるだろう。でも、わたしは彼女と同じ選択をしてしまった。その相手が今も自分を思ってくれているか分からないのに。

 もしかするとこういった出会いのことを一期一会というのかもしれない。

 それに、好きでいるだけなら迷惑はかけないだろう。
 罪悪感に苛まれそうになるたびに、そう言い聞かせていた。

 男性にしては少しキーの高い声に名前を呼ばれた。その声を聞いて、わたしは顔を上げた。そこに立っていたのはわたしと同じくらいの歳に見える、長身の男性だった。

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