わたしは一生に一度の恋をしました

 真一の言葉は暗に自分の両親のことを語っているような気がしてならなかった。

 綺麗事ではなく、彼はそんな両親を見て育ってきたのだ。

 真一は息を吐いた。

「由紀も幸せにやっている。だからもう気を遣うことはないよ。結局、十年経っても忘れることができなかったのだろう?」

 わたしはその言葉に首を横に振った。お父さんは結局真一のお母さんと離婚したらしい。彼の地位は妻の家から貰ったものも同然だった。だから彼は離婚と同時に長年勤めた会社を退職したと大学三年のときに真一から聞かされた。それから豊かではないものの、元気にやっているようだ。真一はお父さんの決意を責めず、連絡を取っているみたいだった。

 だが、お父さんは一度もわたしに会いに来ることはなかった。彼は彼なりの方法で自分の罪を償おうとしているのかもしれない。真一のお母さんは離婚後、それなりに幸せに暮らしているようだった。

 三島さんはわたしより一年遅れて引っ越し先の大学に進学し、獣医学部の合格を果たしたらしい。それ以降のことは敢えて聞かなかったが、きっと三島さんなら立派な獣医になっているだろう。
< 151 / 157 >

この作品をシェア

pagetop