わたしは一生に一度の恋をしました
 そのとき、リズミカルな音が賑やかな公園に鳴り響いた。真一は一言わたしに断ると、携帯を取りだした。

「分かりました。今から行きます」

 仕事の電話だろうか。

 真一は電話を切ると、顔の前で両手を合わせた。


「悪い。急に呼び出し。本当はもう少し後からだったんだけど、急に来てほしいって言われた」

「大変そうだね。わたしは構わないよ。今度ゆっくりご飯でも食べよう」

「悪い」

 真一は何かを思い出したのか、動きを止めた。

「まだ時間ある?」

 わたしは真一の言葉に頷いた。

「今日休みだから」

「一つ、頼んでいい?」

 真一は皮のバッグの中から紙袋を取り出した。それをわたしに手渡した。重みがある。本や紙類の類だろうか。

「あいつが三時くらいにここに来る。だからこれ、借りた本が入っているのだけど渡しておいてくれないか?」

 あいつというのは誰か聞かないでも直ぐに分かった。

 わたしは唇を噛んだ。

「無理だよ」

「会いたくない?」

「そうじゃないけど、会えない」
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