わたしは一生に一度の恋をしました
 客観的に考えれば不安に感じる状況にも関わらず、わたしの心は不安を感じることなく落ち着いていた。それは近くに森があるという状況下にいたからか、そえとも鮮やかに上空に舞い上がる花火を見ていたかからか分からなかった。

 わたしたちはそれから何も話をせずに花火を見つめていた。大き目の花火が空に散らばると、辺りは一気に静寂に包まれた。月と無数の星が再び存在感を取り戻していた。

「これで最後かな」

 後から来た色白の男性がそう言葉を漏らした。

「時間的にそうかもしれないな」

 わたしを強引に引っ張ってきた男性が腕時計に視線を落とすと、そう言葉を漏らした。

 わたしは二人の立っている中間点に向けて頭を下げた。

「わたし、帰ります」

「送っていくよ。一人じゃ危ないよ?」

 幼い印象を受ける男性は立ち上がると、わたしに一歩だけ歩み寄ってきた。
 わたしは彼の顔を見ると笑みを浮かべる。

「走って帰るから大丈夫です」

 警戒心は不思議となかった。ただ、自分のことは自分でしないといけないという一種の義務感のようなものだったのだ。

 わたしが帰ろうとしたとき、突然腕を掴まれた。わたしの腕を掴んだのは先ほどの無口な男性だった。


「俺が送って帰るから。お前も家に帰れよ」

「分かった。じゃあな」

 彼はわたしの腕を掴んだまま歩き出す。わたしは体のバランスを崩してこけないように彼と歩調を合わせていた。先ほど周囲を見渡しながら歩いた道も再度見渡すような余裕もなく、わたしの意識は掴まれた腕に向けられていた。
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