わたしは一生に一度の恋をしました
「気に入ってもらえたみたいで良かった。自然は豊かな分、ここは少し不便なところだからね。都会みたいに人は人、自分は自分という考え方と違って人のことに干渉してくる人間も沢山いる。そういう人たちは気にしないのが一番よ」

 わたしは千恵子さんの言葉に頷いた。わたしの性格上気にしないのは難しい気はしたが、出来るだけそう勤めるしかないのだろう。わたしはこの町で過ごすことを選んだのだから。

「千恵子さん」

 おばあちゃんの声が聞こえてきた。話が終わったのだろう。先ほどまで持っていた紙袋はなかった。彼女は千恵子を見ると笑顔を浮かべていた。

「お元気そうでなりよりです。わたし、車で来ているので送りますよ」

「いつも悪いね」

 おばあちゃんは掃除の終わった墓の前で身をかがめると、両手を合わせ何かを祈っているようだった。彼女は今、お母さんのことを思い出しているのではないか、そんな気がした。



 高校への入学手続きは直ぐに終わった。編入試験も問題なくパスし、わたしのお母さんや千恵子さんの通っていた高校に入ることが決まり、新学期が始まるのを待つだけとなっていた。

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