わたしは一生に一度の恋をしました
 わたしと千恵子さんが家の中に入ろうとドアを開けたときだった。玄関先には先着者がいた。その人はわたしを見ると、眉間にしわを寄せる。何か言いたいようだが、何も言わずに靴を脱いで家に上がる。そんな彼を千恵子さんは嗜めた。

「全くちゃんと挨拶くらいしなさいよ。ほのかちゃんよ」

「学校で挨拶でしたよ」

 三島さんは呆れたような口調で千恵子さんに話しかける。千恵子さんは目を見開くと笑みを浮かべていた。

「もしかしてもう顔見知りになったの?」
「同じクラス」

 三島さんの言葉に千恵子さんは納得したようだった。

「この子はうちの息子よ。人見知りが激しくて困っているのよ」

 わたしは千恵子さんの言葉に考え込んでしまった。人見知りとは違う気がしたが、わたしはその言葉を聞き流すことにした。

「うるさいな。関係ないだろう」

 強い口調で三島は千恵子さんに食って掛かった。だが、千恵子さんにまったく動揺した気配はない。ということはこういった会話は日常茶飯事なのかもしれない。

「似ていませんね」

 それはわたしの率直な感想だった。

「そうなのよ。この子は主人に似たのね」

「じゃあ部屋に戻るから」

 千恵子さんはそう言い歩きかけた息子の腕を掴んでいた。



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