わたしは一生に一度の恋をしました
「向こうの学校では勉強はどれくらい進んでいたの?」

 わたしは主要教科の進み具合を簡単に告げた。三島さんは母親の手を振り払うことなく、わたしと千恵子さんのやり取りを聞いていた。

「こっちのほうが若干進んでいるみたいね。勉強はどう? 志望校はどうするの?」

「今のところは何も考えていません。国立大を希望していたけれど、なかなか厳しいみたいで。今のところはC判定で」

「勉強、この子に教えてもらったら? これで結構成績はいいのよ。ね、いいでしょう?」

 千恵子さんは息子に目くばせした。
 彼は眉根を寄せた。

 でもこの人は恐らく拒むだろうな。わたしは三島さんを見てそう感じていた。だが、わたしの耳に届いた返事は意外なものだった。

「別にいいよ」

 三島さんはわたしの顔を睨み付けていた。本人に睨んでいたつもりがあるのかは分からないが。
 わたしは促されるようにして答える。

「いつでもいいけど」

「どうせなら、今から教えてあげたら? ついででしょう」

「別にいいけど。部屋に来てくれたら教える」

 三島さんがそう言い残し、階段を上っていこうとしたときだった。

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