わたしは一生に一度の恋をしました
「ほのかちゃんと一緒に行きなさいよ。わたしは飲み物を持ってくるわね。あなたの部屋は狭いから、客間を使いなさい」

 千恵子さんはそう言い残すと踵を返した。

「何で俺が」

 千恵子さんにその言葉が聞こえていないのか、千恵子さんが玄関の右手にある様式のリビングに姿を消した。その場にわたしと三島さんだけが残される。

 三島さんは溜め息を吐くと、投げやりな口調で言葉を発す。

「客間でいいか? 靴脱げば?」

 わたしは靴を脱いだ。

 三島さんは玄関の目と鼻の先にある部屋のドアを開けた。そこには豪華なソファや、掛け軸、花瓶のようなものまで飾られていた。

「俺は荷物を置いてくるから、適当に座っておいて」

 三島さんはそう言い残すと部屋を出て行った。わたしはドアに一番近いイスに腰を下ろすと、数学の教科書を机の上に置いた。そこでやっと一息ついた。
 急によくわからないことになってしまった。

「受験か」

 わたしはどうしたらいいんだろう。
 この家に来てからは、具体的に考えないようにしていた。

 いい大学に入って、いい会社に入る。そして、母親に楽な生活をさせたい。
 そんな願いはもう敵わないものになってしまったのだ。
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