わたしは一生に一度の恋をしました
 といっても、成績が追い付いていないのが情けないけれど。

「何か考えごと?」

 顔をあげると、白いシャツに黒いパンツを履いた三島さんが部屋の中に入ってきた。先ほど座っていた場所に腰を下ろした。

「なんでもない」

「無理には聞かないよ。それでどこを教えたらいい?」

 三島さんは全く気にした素振りもなく、一方的に会話を進めた。

 彼は手にしていた教科書を机の上でめくった。

 彼はわたしがどこまで教わっていたか確認すると、目線を走らせた。

「結構遅いな。学校ではもう教科書の内容終わっているから。分からないのは内容が?」

「教科書の内容は分かるけど、問題になると詰まってしまって」

 千恵子さんがそっと部屋に入ってきて、わたしと三島さんの前に麦茶を置く。わたしは千恵子さんに頭を下げた。

 三島さんは気がついていないのか無反応だった。

「そしたらこの問題解いてみてくれ」

 わたしは差し出された問題を解き始めた。計算式を作ろうとして三番目の項で引っかかった。

 三島さんの冷たい視線がわたしに向けられているのが分かった。こんなところも分からないのかとまた冷淡な口調で言われるのではないかと思い、頭をフル回転させて式を導こうとするがどうしても出てこなかった。
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