わたしは一生に一度の恋をしました
「母は先日事故で亡くなりました」

 できるだけ淡々と感傷的にならないように語る。

 受話器の向こうから悲鳴に近い女性の声が聞こえてきた。

 その言葉に抉られるような胸の痛みを感じた。彼女の声はわたしの悲しみを呼び起こすには十分だったのだ。

「いつ、ですか?」

 言葉が震え、今にも消え去りそうなほど小さな声だった。

 わたしは、再びその言葉により深く胸の奥を抉られるような感触を覚え、唇を噛み締めた。

「三日前に交通事故で」

 長い沈黙の時が流れた。
 沈黙を破ったのは、その女性のほうだった。

「ほのかちゃんよね? そちらの家に訪問して構わない?」

「どうしてわたしの名前を知っているんですか?」

「千明に聞いていたのよ。それにあなたは覚えていないと思うけれど、わたしはあなたと一度会ったことあるのよ」

 女性の言葉に素直に驚いていた。

 だが、彼女は嘘をついていない。そう感じ、彼女の言葉に「分かりました」と返事をした。



 それから一時間ほど経過した後、玄関のチャイムが鳴った。インターフォンに応答すると、電話口から聞こえてきたものと同じ優しい声が耳に届いた。彼女は「三島です」と自分の名前を告げた。

 わたしが返事をして、玄関を開けると、小柄で水色のサマーセーターに黒のタイトスカートを履いた女性が立っていた。

 彼女は奥二重の瞳でわたしをじっと見ると、優しい笑みを浮かべた。
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