わたしは一生に一度の恋をしました
「そうね。きっととても大事な子なんでしょうね」

「あの高校に通っていたりします?」

 わたしは単純にあの不愛想な彼の初恋の相手に興味がわいた。
 彼が誰かに心を奪われるなど、想像できなかったのだ。

「通っているわよ。誰かは教えられないけどね」

「そっか。残念」

 わたしは大げさに肩をすくめた。


 部屋の時計に視線を移すと、もう時刻は二時を回っていた。
 もうこんな時間になってしまっていた。

「わたし、そろそろ失礼しますね。おばあちゃんが心配したらいけないもの」

 わたしが立ち上がろうと、テーブルに手を置くと、千恵子さんがそれを制した。

「ちょっと待って。将を呼んでくるわ」

 千恵子さんは部屋を出て行った。わたしは部屋に残され、適当にアルバムを見ることにした。

 確かに三島さんの写真の一割程度には由紀が一緒に写っている。真一が一緒に写っているのは数枚しかないのに。

「好き、か」

 幼い三島さんと由紀が居て、由紀が好意を持っている。三島さんにはほかに好きな人がいた。淡い幼い頃の恋心がやけにほほえましく感じていた。


 きっと、わたしはその気持ちを知らなかったからだと思う。
 わたしはこの年まで誰かを好きになることがなかったのだ。

 今まで一度も男の人をいいなと思ったことがないわけではない。だが、その気持ちが好きにたどり着かなかったのだ。
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