わたしは一生に一度の恋をしました
 派手さはないが母性的な温かみのある女性だった。だが、彼女に会った気がするかと自分に問えば、そのような記憶は全くと言っていいほどなかった。


「大きくなったわね」

 わたしはその言葉にどう反応していいのか分からなかった。

 千恵子さんはわたしの迷いに気付いたのか、口元に笑みを浮かべ、鞄の中から写真を取り出した。それをわたしの目の前に差し出した。


 その写真にはセーラー服を着た女性が三人写っていた。一人はわたしの母親で、もう一人は彼女のようだった。もう一人はどこかで見たことがある気がするが、どこで見たのかは思い出せなかった。とりあえず知り合いだと言っていた彼女の言葉は本当のことだったのだろう。

 人を疑わずに済んだことに胸を撫で下ろす。

「わたしは三島千恵子と言います。あなたのお母さんとは同じ高校に通っていたのよ。これはそのときの写真」

「お茶なら出せますから上がってください」

 彼女はわたしの言葉に会釈を浮かべた。
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