わたしは一生に一度の恋をしました
「ごめんなさい」

 お母さんはわたしを責めることなどしなかった。今まではそれが救いだったのにも関わらず、お母さんの優しさが余計にわたしを辛くさせた。

 わたしは念仏を唱えるかのように何度もお母さんに謝った。それがお母さんに届かないと分かっていてもそうせずにはいられなかったのだ。

「藤田?」

 わたしはその言葉に思わず振り向く。そこには三島さんが立っていた。
 彼はわたしの顔を見ると驚いたように目を見開く。

「どうかしたのか?」

 わたしは何度も頭を横に振った。言えるわけがない。わたしがお母さんを不幸にしたなど。

「何でもないの」

「誰かがお前たちの噂をしているのを聞いたのか?」

 わたしは三島さんの言葉に何も答えられなかった。それが三島さんへの返事になったようだった。

「誰に言われた?」

 わたしは何度も首を横に振った。

「わたしの全然知らない人だと思う。わたしがいなければよかったのに。おろしたらよかったのに、って」

 三島さんは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
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