わたしは一生に一度の恋をしました
「由紀の家は金持ちで、由紀の父親も実は婿養子だから。また婿養子を取るのではないかという変な先入観で物事を憶測したりしているよ。暇なら人の噂話をするのでなく、もっと有意義に時間を使えばいいのにさ。本当にくだらないとは思うよ。だから気にしないほうがいいよ」

 三島さんはわたしの頬の涙を手で拭った。その手がとても暖かく、わたしはその温もりにずっと浸っていたくなった。

「千恵子さんからわたしのお母さんのことは聞いた?」

 三島さんはわたしの言葉に首を横に振った。

「そこまで詳しくは知らない。母親と昔同級生だった、あと父親と一緒に暮らしていないことは聞いた」

 彼は一通りは知っていたのだろう。

「わたしは千恵子さんが同級生だったことは、最近聞いたかな。生まれたときからお父さんがいなくて、ずっと二人暮らしだったの。生活は豊かでなかったけど、わたしはお母さんから愛情受けて育ったし幸せだった。だから、それでよかったのに、さっきの話を聞いていたらわからなくなってきたの」

 わたしの視界が涙で滲んだ。

「お母さんは果たして幸せだったのかな? 結婚もせずに、わたしが知る限り恋人もいなくて、わたしを育てるためだけの人生だったようなものなのに」

 三島さんはわたしの目の前で腰を下ろすと、優しく微笑んでいた。彼はハンカチを取り出し、わたしに渡した。

「藤田が幸せだと感じたならお前の母親もきっと幸せだったと思うよ。家で見つけたけど、こういう写真を家に送ってくるわけだから」

 三島さんはバッグから写真屋で貰う簡易アルバムを取り出し、わたしに渡した。

 わたしはそのアルバムには手紙が添えられていた。その手紙はお母さんの字でわたしの日常が描かれていた。今日はこんなものを食べたり、家で留守番をしているときにお母さんの似顔絵を描いたなど、本当に他愛のない内容だ。それに加えて、わたしのことがいかに大切か書かれていたのだ。

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