わたしは一生に一度の恋をしました
「このまま何もなかったことにしてこの町を出たい」
「それでいいの?」

 真一は眉間にしわを寄せ、わたしの顔をじっと見ていた。

 わたしはその言葉に頷いた。

「ほのかがそう望むなら誰にも言わないよ。約束」

 真一はそう言うと、わたしに小指を差し出した。わたしはその小指に自分の指を絡める。真一の手はとても暖かかった。

「そうだ。何か飲み物を持ってくるね」
「いいよ。おかまいなく」
「そんなわけにはいかないよ。待っていて」

 わたしはそう言い残すと台所に戻った。そして、コーヒーを作り、客間に戻った。わたしはそれを真一の前に置いた。

 真一はわたしの運んできたコーヒーに口を付け、一口飲むと、カップをテーブルの上に置いた。

「ほのかは僕の姉になるわけか。複雑だよな」

「わたしも初めて知ったときは確かに戸惑ったもの。真一も由紀さんもいい人だから余計にね」

「いい人か」

 真一はそう言うと少しだけ寂しそうに笑っていた。

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