グレイラブソング
「覚悟か...。」
さすが国語科の先生だ。彼女はよく例え話をして、学生の僕らにもわかりやすく話をしてくれる。国語で言うなら比喩表現と言ったところだろうか。僕にいつも、わかりやすいヒントをくれる彼女には感謝してもし尽くせない。
「確かにそうなのかもしれないです。」
僕が素直に彼女の意見を受け入れると、彼女は満足気に微笑んだ。
「でも突然元カレから手紙なんか来て、普通引きませんか?」
「そんなことないわ。女の子は手紙を喜ぶものよ。それに、嫌いだから振られたんじゃないんでしょ?」
そう言って彼女は僕に温かいコーヒーをご馳走してくれた。

「私といるときっとあなたを苦しめてしまう。だから...友達に戻ろう?」

コーヒーをすすりながら、僕はあの日振られたセリフを思い出していた。そういえば、確かに嫌われて振られたわけではなさそうである。当時はショックで心が麻痺して、そんなこと気にする余裕もなかった。
「確かにそうかもしれません。」
僕は先生の言ったことと、あの日のことを少しずつ照らし合わせて、間違いないと確信した。と、同時に湧いてくる疑問が一つある。
「でも、どうしてわかったんですか?僕は振られた時のセリフなんて、先生に教えていないはずなんですけど。」
すると先生は、これだから男はといった様子で、眉間にしわを寄せながら言った。
「本当に嫌いになったのなら、突然別れ話にはならないわ。嫌いっていうのは徐々に溜まっていくものだからね。」
そうなのだろうか。今の僕には、よく理解できないけれど、話が進まないのでとりあえず理解したフリをしておく。
「そうですね。まあ、こんなこと言っていても仕方ないし、まずは手紙を出してみないと。」
「その通りね。」
「では、帰って早速取りかかってみます。」
僕はコップに残っているコーヒーを飲み干して、ありがとうございましたと、彼女に返す。彼女はいつもの柔らかい笑顔で応えてくれた。ソファーに寄りかけて置いてあるリュックを手に取って、僕は部屋を後にすることにした。ドアを開ける前に彼女にちゃんと一礼をして、引き戸式のドアをガラガラと音を立たせながら開けた。その背中に彼女は「頑張ってね」と一言エールをくれたので、僕は手をあげてそれに応えた。
今度こそ下駄箱で上履きからスニーカーに履き変えると、僕は急いで学校を出る。家に帰ってやるべきことがあるからだ。出入り口を通過して、駐輪場に向かう間、雨が一粒頬に当たった。ふと上を見てみると、分厚い雲が空を覆っていて、今にも大雨が降りそうである。どうやら、急がなければならない理由がもう一つ増えてしまったらしい。僕は使い古した自転車にまたがると、必死にペダルをこいだ。
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