送り主のない手紙




鍵を開けて部屋に入ると、真っ暗で陰湿な空気が漂っていた。だが今日はそんなことちっぽけも気にせず、濡れた靴下を手紙を持っていない方の手で脱いで、部屋に駆け上がった。



机の上に転がっていた鋏を手に持って、つんのめりそうになる気持ちを落ち着けて、ゆっくりと白に刃を入れた。



『昔ね、おばあちゃんが子供のころはね、まだ電子メールと手紙のどっちがいいんだ!ってよく議論されていたのよ』


『私は絶対電子メール!って思っていたんだけれど。でも手紙が減っていく時代を歩いているとね、やっぱり手紙が恋しくなるの。何もかも効率で語る時代にね……あー遅かったんだってみんな嘆いていたわ。手紙は出せば届くのに、出しもしないで嘆くだけ。時代は変わったのねってつい笑ったわ』









開いた手紙には、ただの白紙が入っていた。


ぽたりぽたりと髪から垂れる滴が、紙ににじみを広げただけだった。




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