物語はどこまでも!
「まあ、命に関わる怪我は治してもらったよ。戒めとは言ったが、マサムネのさまを見ていると自己満足にも思えてきてな。もう二、三日しない内に健康体になって帰ってくるさ」
「そうして下さい。病室で虫の息たる親友はもう見たくありませんから」
えいっ、と軽くデコピンしておく。
あの時、止められなかった私も悪いのでデコピン返しをしてもらおうと額を出すが、あったのは謝罪の言葉だった。
「お前のおかげだ、雪木。いつかの言葉を取り交わしたからこそ、私は大切なモノを失わなくて済んだ。あれがなければ、マサムネがやられてしまった瞬間、怒りに身を任せて『そそのかし』に食ってかかったかもしれんからな」
その結果どうなるかなんて、想像しなくても分かるだろう。想像してしまったらしいマサムネが、野々花の胸に飛びついているけど。
「私は、強くなりたい。その気持ちは代わらないし、刀(これ)も外さない。しかして今は大切なモノの命と、自分の命も守れるほど強くなった気ではいるよ。ーー怖くなったら逃げるさ」
確かにそれは以前の彼女にはなかった、臆病(強さ)だ。
逃げることを恥と思わず、自己満足(自己犠牲)を良しとしないやり方こそ大切だ。自分の命を守れずにして、誰かの命を守ると言わせたくはない。
「もっともそれは、お前にも持ってほしいものなのだがな」
「え、……あー」
思い当たる節があり、笑ってごまかすことしか出来ない。今度こそデコピンをもらってしまった。痛い。
「やりたいことをしろとは言ったが、一歩間違えれば物語共々消えていたかもしれなかったんだぞーーと、説教したところで、お前のそのお節介は聖霊でも治療出来ないし、お互い様だな」
おあいこだと、これ以上のお咎めはなかった。
「リーディングルームが再建すれば、また『フォレスト』は運営するのでしょうか」
事件以降、物語の『訪問』禁止令が出たのは当たり前だが、それは一般利用者だけでなく図書館スタッフにも当てはまる。
物語へ行き来するためのキーアイテム(羽根)は私も同様に取り上げられ、今後の見通しは一切立っていない。
ふとした疑問を投げかければ、野々花は「するだろうな」と返す。