物語はどこまでも!

「『フォレスト』(ここ)だけでなく、今や世界各国にある図書館は安全性が保障されるまで運営禁止。場合によっては廃止もあり得る。ーーとは世論に対する建て前(答え)だが、リーディングルームを“再建”している時点で答えは出ているだろうよ」

「……大丈夫なのでしょうか」

あの事件があってから、物語界の『訪問』は規制されている。事の元凶たる『そそのかし』がどうなったのかは分からないが、また同じ事が繰り返されるのではないか。

多くは言葉にせずとも、頭の冴える野々花はそれを踏まえて答えを出していた。

「司書長たち自らが安全性を確かめ、上位聖霊の加護も強化した。と、題打てば、利用客は戻って来るさ。最初は数人、何も起こらなければ、数十人、月日が経てば数百人、年月が過ぎれば以前と大差ない利用客となるだろうさ。今回の件とて、結果的に怪我をしたのは図書館のスタッフだけだからな」

「そんなの安全と言い切れないじゃないですか」

「“何かあってからでは遅い”。お前の考えは正しいが少数意見だ。未だに人々は、“何があってもどうにかなる”と考えるものが多い。議題の席にて私も意見をしたが、聞いてくれたのは我らが長(本城海)ぐらいなものだったよ。他図書館の司書長陣は、他人の庭で起きたことだとまともに聞きもしなかった。物語界の安全性も、長が先陣を切って行い、『そそのかし』はどこにもいなくなったと証明してくれた」

「『そそのかし』が……」

まさかの言葉に絶句する。発生源が掴めず、手をこまねいていた物がいなくなるなんて。


「笛吹き男の物語で群れていたと聞いたが、あそこに全てが集まり、彼や私が倒したことで絶滅したのではないかとの見解だ。正体不明の物だったからこそ、いなくなればこんなあやふやな見解しか出来ないのだよ。もっともまた『そそのかし』が現れようものならば、図書館は運営を廃止せざるを得ないさ。逆説、いない現状たる事実があれば運営を続けられる」

煮え切らない決定だ。
そんな私を察してか、彼女は続ける。

「手遅れになる前に、私たちがいるではないか。まさか、今回の事件があって図書館を辞めるとは言うまいな。危ないことを素早く見つけ、怖いと思ったら逃げる。そんな果敢な臆病者が我が精鋭に欲しいのだ」

「焚き付けているのか、貶しているのかどっちかにして下さいよ」

『我が』とか言っちゃうあたり、彼女は司書としてここに居続けるつもりなのだろう。

そんなの、私とて同じだ。

「私も残りますよ。『そそのかし』の件だけでなく、物語の住人たちを幸せにするのが私の仕事ですから」

ウィルのことを思い出す。
思い出し、思ったことを口にした。

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