物語はどこまでも!

「ウィルには偉そうなことを言いましたが、ふと考えたんです。仮にも私のこの人生が物語だとしたら。それも産まれた時から死ぬ時までの一生ではなく、ある時からある時までの一瞬だとしたら」

口を一度閉じたのは、続けるか迷ったからだった。ウィルのことを語るつもりが結局は自分語りに、それも聞けば重くのし掛かるような話しもあるから。

それでも続けてしまったのは、誰かに聞いてほしかったからに違いない。告解室にでもいるのかように、身に留めるには辛過ぎる罪だと思ったから。


「私が……両親を亡くしてまだ間もないころ、あの時に私の物語が終わりとなり、また始まりに戻る。その繰り返しの中で私がどうするかなんて、目に見えています。両親を死なせないよう色々なことをして、でも結局結末は変えられない。もうこの物語自体を閉じようとしても、見えない誰かの手によってまた戻されてしまう。何度も、繰り返し。私は両親を目の前で死なせてしまう」


繰り返される悲劇とは、正にそんなことだろう。こんな考察も出来てしまうのも、私たちの物語(人生)はどこまでも進めるように出来ているから。

未来があるんだ。
しかしてその未来が、また過去(はじまり)から戻る仕組みが出来てしまえばーー幼い私でなくとも、きっと。

「私もきっと、ウィルと同じように物語をーー“そんな物語”なら、壊したくなってしまう。それを邪魔しようとするなんて悪魔以外の何者でもない。とても憎く思えるのにーーウィルは私の姿を見た時、ホッとしたような顔をしていたんです」

いよいよとなって、物語が崩壊するあの最中。私を出迎えたウィルは、ほんの一瞬。そんな顔をしていた。

結局のところ、ウィルは最初からあんな終わり方(崩壊)を望んでいなかった。

自分では止められない場所にまで来てしまったからこそ、誰かに手を引いてほしかった。


何もかも終わらせたいと思っても、心の片隅にはきっとまだ“希望”(期待)があっただろうし。

「それはお話の中ではなく、“自身の意思”で大切なものを奪わなくて済んで良かったと言っているように見えました。繰り返される無機質な文字の羅列では語りきれない心がウィルーー物語の住人や、それは確かに私たちにもある。

両親が亡くなってひたすらに泣いた。けど、両親がいてくれてひたすらに笑った。いくら繰り返される残酷さでも、私の手(自分の意思)で両親を壊せるわけがない。それは、心のワガママ。自分のことなのに一括りに出来ない様々な感情が芽生えて、奔走、迷走して、どうしようもなく無様で、正しいことも間違ったこと区別が出来なくなる。

そんな救いようがない話になるはずなのに、泣く人を放っておけない人ばかりだからーー救いがなくても幸せなんです」

物語の住人たちに囲まれたウィルは、今も幸せにやっているだろう。

また同じ絶望を繰り返そうとも、今度は何度も手を引いてもらえる。

悲劇の物語でも、その内にある心は常に温もりで溢れている。私もまた、失ってしまった立場だけど、こうして。


「お前もまた、みんなから愛される存在だよ」

優しい人たちに囲まれているから、悲しむ暇もないんだ。

残酷なことをしてしまったと思う反面、ウィルには知ってほしいという気持ちもある。これが私(心)のワガママだ。

生きていなければ、こんな気持ちも味わえないだろうから。

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