物語はどこまでも!
(ーー)
決着はついた。
そう思った彼が、腰を落ち着かせたのは幾日ぶりだったか。
はあ、と溜め息をつきながら、疲れを露わにする彼は普段なら誰も目にすることが出来ないものだ。
彼は弱みを見せない。故に、誰もいない本の世界(ここ)でなら何かを気にすることもない。
「ああ、本当なら……」
彼女に癒やしてほしいものだと、どこまでも弱い自分でいられてしまう。いつもの格好良さはいずこか。自覚はあるが、まだ少々体を休ませ(甘やかせ)てもいいだろう。
何せ、こんなにも短期間に物語界を行き来したのは初めてだったからだ。
宇宙のように時間の概念がないここでは、『短期間』というのもおかしな話だが、この疲労困憊ぶりは紛れもなく最速最多記録と言えよう。
少し横にでもなろうかと、手近な本を枕にしようとした矢先、小さな声が聞こえた。
ぎょっと彼が立ち上がり、辺りを見回す。来訪者なんて、この彼の住処(世界)に来るわけがない。
それは言った。
『物語の先へ行け』、と。
「ああ……」
連れてきてしまったかと、彼は肩に乗る小さな虫を見た。
「しぶといな」
様々な物語界へ行き、片っ端から潰してきたつもりではあったが、まだ数はいるらしい。
“決着”はついていないかと、彼は二度目のため息をついた。
しかしながら、虫たちの数はあからさまに減っては来ている。無尽蔵に湧いていた発生源が途絶えたと考えるべきか。彼がしていることは、いわば残り滓の掃除だ。