物語はどこまでも!
「お前がいると、雪木が安心してここに来れなくなるからな」
あの一件から彼女は物語界へ『訪問』しなくなった。現実社会のことなど、彼には知り得るわけもないが、何故来ないかなど容易に想像は出来る。
疲労困憊はどこへやら。また物語界を赴くかと、手始めに肩の虫を潰そうとした最中。
『彼女のもとへ、行きたい』
心の奥底にある気持ちを代弁する虫が、彼の鼓動を早めた。
ニヤリと虫の口元が笑ったのは錯覚だったか、最後の力を振り絞るかのように虫は語る。ーー呪(まじな)いでもかけるかのように、彼にとっての呪詛(本心)を紡ぐ。
『行きたい行きたい。あちらの世界に行きたい。なぜ引き離すのか。なぜ違えた世界に産まれたのか。部外者はいらない。綺麗な輪には入れない。ここにはいたくない。彼女のもとへ。行ける行けるはずだ。物語の先へ。ここを消してでもどんな犠牲を払ってでも。愛するもののもとへ行くことに何の間違いがあるのか。どんな物よりも美しい感情のまま、物語の先へ。物語の先へ行けーー!』
矢継ぎ早に話されたはずが、一字一句聞き違えることなく鼓膜を通る。
瞳孔が開き、鳥肌が立つ。衝動が血液ごと沸き立ち、鼓動の早さと共に行動したくなる。
そうだ、何を迷う必要があるのだろう。
『人を愛することに間違いなんかない』
躊躇うことはない。今まで待ってきた。
『待ち続ける必要はなくなった』
例え、どんな手を使ってでも。
『例え、何を犠牲にしてでも』
それほど自分は彼女を愛している。
『そう、だからーー!』